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亜人間ミズエの洞窟

2005-09-04 14:31



亜人間ミズエの洞窟

ミズエは亜人間だ。ミズエはいつも胸に深い穴が開いているような、どこか空虚な気持ちをものごころついた頃から感じている。これはきっと自分が亜人間だろうと人間だろうと変わらないだろうとミズエは思う。
この「穴」はいつも乾いている。あるいはいつだって湿っている。
何か放り込んでやっても「穴」は決して満たされることなく暗い「穴」のままだ。
 高校の教室(ミズエは人間と一緒に高校に通っていた)で、ミズエは頬杖をつきながらため息をつく。どこか大人びたその様子を見つめる男子生徒の視線にはもちろん気づいているが、ミズエにはそれらに今のところ興味はない。
ミズエは背が高かった。180cmもの長身で、すらりと伸びた手足は遠くからでも人目を惹かないではいられなかった。しかしミズエはそんなことには気も留めず、いつも自分の身内から溢れ出る「何か」が欲しいと思っていた。それは彼女の「穴」をふさぐものであり、同時に「穴」から溢れ出すものだ。
 隣のクラスの友人のキリコはアナウンサーになるんだと言うのが口癖で、何度も放送室を占拠しては、どこで仕入れてきたのか非公式の校内ニュースを流していたが、いやがられもせずに結局皆は彼女の放送を内心こころ待ちにしていた。
ミズエは溌剌としたキリコの声を教室のスピーカーから聞くと、僅かな嫉妬心を覚える。
「みなさーん、お昼の校内ニュースの時間でーす。今日。。。」
楽しげな彼女の声は軽やかにミズエの「穴」に入り込み、内側をはね回り、彼女の何もないはずの「穴」に切り傷をつけるのだ。ずきずきと。

 その日の放課後、ミズエはキリコと一緒に学校を出た。帰り道の話題は一年生のタマツバキツバサくんがいつも持ち歩いている不思議な色の小石のことで、いずれキリコはこれもニュースのネタとして取り上げるつもりだった。
「でね、今日聞いてみたのよ。同級生の子に。タマツバキくんのあの石っていったいなに? って。」
「で、なんだったの?」ミズエは胸の辺りを押さえながら尋ねた。
「それがよく分からないみたいなの。クラスのみんなも不思議がってるけど、なかなか聞けないんだって。男子なら知ってるかもだってさ。」
「へえ。」ずき。
「明日同じクラスの男の子に聞いてみるよ。使えそうなら来週のニュースかなぁ。」
「本人に直接聞いてみた方がいいんじゃないの?」ずき。
「それもそうなんだけど、あの子、見た目はそんな感じじゃないんだけど、なんだか話しかけづらくてね。」
「。。。。キリコ、ちょっと悪いんだけど、先に帰っててくれる? 忘れ物しちゃった。」ずきずき。
「一緒に取りに行こうか?」
「いいのいいの。」ずきずき。
ミズエはキリコを半ば振り払うようにして道を引き返した。学校の前を通り過ぎ、商店街も抜け、川の土手まで来ると、突然ミズエは土手道を走り出した。胸を反らして「穴」に風を送り込むように。走っている間は何もない「穴」にも通り抜ける風があるのだ。そして胸の「穴」の疼きはやがて心臓の力強い拍動に取って代わられ、最後は「穴」があることすら意識しなくなる。
ミズエは一心不乱に走り続け、息が切れて走れなくなると、土手の下の芝に体を投げ出した。ミズエは、薄桃色に染まった空を見つめながら、何度も深呼吸をして荒い呼吸を落ち着かせようとした。黒いシミのように空高く舞っているのはきっと鳶(とび)だ。彼らは歌うのがすきで、その優れた目でミズエを見つけると、いつも高みからミズエに歌いかける。

 『おいらは ひとり 
  ひとりだって へいき 
  そらが おいらをまってるの
  あんたも ひとり 
  なにが あんたをまってるの』 (ミズエ訳)

しばらくミズエは鳶の他愛のない歌を聴いていたが、やがて夕闇に沈んでゆく空を見つめながら呟いた。
「かえろ。」

 ◆ ◆ ◆

「ただいま。」
アパートのドアを開けながらミズエは部屋の奥に目配せした。電気がついていないから、きっとヨシオはまた眠っているんだろう。
弟のヨシオはまだ小学生で、ミズエが母代わりとなっていた。
玄関を上がると陰から尻尾をぴんと立てた黒猫が「にゃーお。」とミズエを出迎えた。
「ジャミ、ただいま。」
黒猫のジャミののどを軽く撫でると、ミズエは奥の間の床でじかに眠っていたヨシオを揺り動かした。
「ヨシオ、ただいま。お腹空いたでしょ。すぐ作るよ。」
目覚めたヨシオは目をこすりながら伸びをすると、ミズエに言った。
「ねーちゃん、おかえり。夢見てた。」
「なあに? どんな夢。」
ヨシオはまだ夢見ているような惚けた顔で言った。
「ねーちゃんがいなくなる夢。」
着替えながらミズエは言った。
「。。。そんなわけないでしょ。遅くなってごめんね。ひとりぼっちで怖くなったんでしょ。」
「ううん、ジャミが言ってた。」
ミズエはジャミを睨みつけたが、ジャミは素知らぬ顔で「にゃー。」と鳴くだけだった。

その夜、ミズエは夢を見た。
ミズエは知らぬ間に深くて暗い洞窟の中を手探りで歩いていた。遙か後ろの入り口からはヨシオの呼びかけ声が聞こえるが、ミズエは抗いがたい何かに引き寄せられ、ヨシオの声を無視して突き進んで行くのだ。ヨシオは明るい陽光の降り注ぐ洞窟の入り口で、ジャミと二人で彼女を待っている。今頃待ちくたびれてうとうと眠り込んでいるだろう。しかしミズエはもう引き返すことができない。洞窟の先からはかすかに反響して鳶の歌が聞こえてくる。なんて歌っているのだろう。ミズエは立ち止まって耳を澄ませる。
「なにが あんたをまってるの」
何がわたしを待っているのだろう。鳶の歌をさらによく聴こうと足を進めたそのとき、不意に背後からジャミのにゃーにゃー鳴く声が聞こえた。

『 あなたは ゆきなさい 世界が あなたを待っている 』 (ミズエ訳)


(おわり)
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亜人間ヨシオと呪いの壺

2005-02-27 22:10
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ヨシオにも友人と呼べる人が何人かはいる。そのうちの一人の金子氏は若い頃から職を転々としていて、六十の声も近くなった今はこつこつ貯めた資金で開業した骨董店を営んでいる。
ヨシオは週に二日ほど金子氏の店を訪れる。友人に会いに行くという名目だが、実際は体のいいアルバイトだった。ヨシオは亜人間であるため資産形成が認められていない。それを不憫に思った金子氏がヨシオに店番をさせ、その代価として昼食や、時には夕食を奢ってくれるのだ。現金を直接渡しているわけではないし、中華屋の定食の代金を金子氏が二人分まとめて払ったところで問題になるわけでもない。金子氏曰く亜人間法の網の目をかいくぐっているという訳だ。
しかしヨシオは金子氏に安い労働力として上手く利用されているだけではないかという思いを拭い切れないでいる。ヨシオが半日店番をしている間、金子氏はパチンコに出かける。大勝ちしたときは夕食も奢ってくれるが、それ以外は大抵近所の中華屋で昼に食べる八百円の定食がヨシオのアルバイト代だ。五時間の店番で得られる昼食代の八百円は何度計算してみても時給百六十円だった。ヨシオは骨董店の固い椅子の上で背筋を伸ばしてその五時間を過ごしつつ、金子氏が昼食時に時折見せる鋭い視線は、ヨシオがこの「トリック」に気付いているのではないかと値踏みしているものではなかろうかと考える。いや、そもそもこれは「トリック」なのだろうか。
そんなある日、店に珍しく客がやって来た。ジャージを着たしなびた老人で、小脇に一輪挿しのような赤黒い壺を抱えている。壺の口は細長く、両脇には耳のような大きな持ち手があり、壺の表面にはうっすらと模様が見えた。老人は覚束ない足取りでヨシオに近づくと、壺の「両耳」を両手で掴み目の前に壺を差し出し、「これは呪いの壺じゃ。これを手に入れた人間はことごとく不幸になるのじゃ」と言った。老人の酒臭い息がヨシオの鼻面を撫でる。しかめ面を何とか隠して「いらっしゃいませ、何かご用で」と尋ねるヨシオに、老人は間髪入れず「この壺を買ってくれんか」と切り出した。
ヨシオは最初取り合わないつもりだったが、何度断っても老人は引き下がらない。しまいには「買ってくれんとこの壺を割る」とまで言い出す始末だった。普段から言い合いに慣れていないヨシオは疲れ果て、店としてこの壺を買うことは出来ないし、かといって自分にも金がないことを告げると、酒と交換ではどうかと持ちかけた。店の奥には金子氏秘蔵の日本酒の一升瓶が大量に保管されている。一本くらい無くなっても気付かないだろう。老人は一も二もなくこの申し入れを受け、壺の代わりに「男侍」の一升瓶を抱えると嬉々として店を後にした。
ヨシオは椅子にへたり込むとぽつんと残された壺を取り上げ、その口をのぞき込んだ。特に何かが入っている風でもないようだ。しかし壺を何気なく振ってみたところ、からからと音がする。逆さまにしても何も出てこないし、改めて中を覗き込んでも何も入っていないように見える。ヨシオは、しばらくしてパチンコで大負けして帰ってきた金子氏に気付かれないよう、壺を持ち帰った。当然夕食は奢ってもらえなかったので、コンビニエンスストアで買い込んだカップ麺とおにぎりを食べながら壺をしげしげと眺めた。音は気になるが、特に変わったところはなさそうだ。そのうち花でも買ってきて挿してやろう。そういえば老人は「これを手に入れた人間はことごとく不幸になる」と言っていたけれど、亜人間も不幸になるのだろうか。
その晩ヨシオは夢を見た。壺から緑の毒々しい霧がしゅうしゅうと吹き出してくる夢だ。夢の中でヨシオは「これは呪いの壺じゃなくて厳密には毒ガスの壺じゃないかな」とぼんやり思うのだった。

(終り)
 
 
 
zord
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亜人間ヨシオと世界の危機

2005-02-06 13:10
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ヨシオは毎朝ジョギングする。近所に大きな池を抱えた公園があって、池の周りを10周してから朝食を買い込み家に帰るのが亜人間であるヨシオの日課だ。
その日もトレーニングウェアに身を包みヨシオは公園に行った。早春のまだ肌寒い空気の中、ヨシオは規則正しいリズムを刻んで呼吸しながら走り始める。
1周もしないうちに池の周りの木々に宿る鳥たちが騒ぎ出した。
鳥は太古からの種族で、古い記憶をよく保存している。しかも大概おしゃべりでおせっかいで、ヨシオに知恵を授けようとする。その日も声の大きな赤い頬のヒヨドリがヨシオに向かって歌い出した。

「亜人間ヨシオよ、世界に危機が迫っている。今こそ立ち上がるときが来た」

ヨシオは「なぜわざわざ亜人間と付けるんだろう」とぼんやり思いつつ、続いて巻き起こった鳥たちの「世界の危機」「地球のピンチ」「惑星の瀬戸際」の連呼を気にもせず池の周りをきっちり10周すると公園を後にした。
帰り道、コンビニエンスストアに寄ってハムとチーズのサンドイッチと野菜ジュースを買い込み部屋に帰ろうとしたが、アパートの門扉の上には大きなカラスが停まっていて、しわがれ声でヨシオに言った。

「亜人間ヨシオよ、おまえの力が必要だ。世界の行く末に危難が立ちはだかっている。何故ならば。。。」

さらに言いつのろうとしたカラスに向かってヨシオはサンドイッチの切れ端を放った。カラスは言葉を飲み込み、ただの動物に戻ってサンドイッチを食べ始めた。「ガアガア」。
ヨシオは部屋に戻り少なくなった朝食を食べながら何年も会っていない姉を思った。
「姉さんは今でも釣りをしてるのかな」
食べ終わるとヨシオはうたた寝を始めた。社会に属していないヨシオにするべきことなど何もないのだ。




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亜人間ヨシオ

2005-01-29 23:48
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ヨシオは亜人間だ。
ヨシオには亜人間であるという一種自虐的な優越感と亜人間であるが故人間社会から拒絶されているという明快な劣等感が常にある。
ヨシオには戸籍がない。月に一度厚生労働省の下級官僚がやって来て簡単な聞き取りをするが、ヨシオの元に足を運ぶ公務員の仲田氏の携帯電話の待ち受け画面には、去年生まれたばかりの女の子の写真が貼り付けられているのをヨシオは知っている。
外見的にはヨシオは人間とほとんど変わらない。街中を歩いていてもおそらくちょっと変わった人に思われるくらいで、ヨシオが亜人間だなどと察知した人はほとんどいないに違いない。わずかに語頭に「は行」の文字があると発音できないくらいで(ヨシオはホテルと「オテル」と呼ぶ)、実生活においてほとんど不都合はない。
ヨシオには自分にも行くべき場所があり、いつか逢うべき者がいるのだと信じている。それは人間にはもたらされていない遺伝的能力で、亜人間である彼にだけ感知のできる何かだ。この感覚はほとんど確信に近いとヨシオは思っている。
だからヨシオは空気から伝搬するその何かによって、知るべき者たちの間で密やかに語られている世界の秘密を知っている。
今それは彼の胸の内にそっとしまわれているが、いつか自分が何かを失うとき、代わりにその秘密が明かされるのだろうとヨシオは感じている。
しかし、一体何を失うのだろうとヨシオは自問する。僕が得たものなんて何一つとしてないのに。
もやもやした気持ちを抱えながらヨシオは眠る。駆け落ちして行方不明になった姉の消息を想いながら。


zord
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